今、手に持っているこのバニラ味といちご味のアイスによって私の人生は激変した、と言っても 過言ではないだろう。思えばダブルにしたのがいけなかった。欲張ったのがいけなかった。



アイスクリーム革命



昼休みに学校の近くにあるアイスクリーム屋さんに行くことになった。それを教室にもっていく途中のこと。 ダブルなんて初めてだったから少し調子にのっていた。ほくほく顔で「自分はダブルのアイスが買えて 幸せです」的な雰囲気が前面に押し出ていたので、恥ずかしい。「そんな小さいことで幸せになれるなんて あんたすごいわー」なんて友達に鬱陶しがられたけど愛の鞭としてうけとっておいた。

次の瞬間、私の幸せは不幸へと一気にかわった。上のバニラの方のアイスが落ちそうになったので、 何とか定位置にもどそうと必死にコーンを動かす。前を気にしていなかったのがいけなかった。 ここが廊下だということを忘れていた。「ちょ、!」友の声が遠く聞こえた。


べちゃ、という音がした。手に持つアイスクリームは哀れな姿になっていた。 でもアイスよりもっと重要なことがあった。アイスがぶつかった先は制服。武蔵野の真っ白だった カッターシャツは淡い黄色と、ピンク色に染まってしまっている。


「あ・・・」
「あー!!!てめぇふざけんじゃねーぞ!」


上を見上げると野球部の、たしか榛名じゃなかったっけ。そいつが叫んだから周りの視線も集まって痛い。


「ごごごごめ、ごめ、」
「これどうすんだっつーの」
「すみませ、」
「ごめんで済んだら警察いらね「榛名!!」


ぶつかった私が悪い。前をみていなかった私が悪い。浮かれていた私が悪い。分かってるよ。 怒るのも分かる。だからってここまで言われると思っていなかった。榛名、くんは周りも気にせず 怒鳴る。少し泣きそうになったけど、途中で仲裁がはいる。


「なんだよ秋丸!」
「その子、怯えてるから」
「あぁ!?」


秋丸くんだった。この野球部2人はいろんな意味で有名だ。たぶん2年生なら知らない人はいないと思う。 他学年もほとんどの人が知っていると思う。早くここから逃げたい。


「あーもう!来い!」
「え、ちょ、」


痺れを切らした榛名くんが私の腕をひく。たくさんの人の間を駆け抜けていく。どういう考えでこうなったのか 私には全く理解できない。途中何度かこけそうになる。足、速いし。でも榛名くんはそれを気にする様子も ない。私は廊下に残されたアイスよりもこれからのことしか気にせずにはいられなかった。


バァン!!榛名くんが乱暴にドアを開ける。ついた先は保健室だった。中はしんとしていて、誰もいない。 「あの、」と、声をかけようとした瞬間、榛名くんがカッターシャツのボタンを1つ2つとはずしだす。


「はぁ!?ちょ、ちょ、何して・・・ぶっ!!」


動揺して言葉がでない私に、榛名くんは脱いだシャツをすごい勢いで投げた。こんなに近距離で 思いっきり投げるのにちょっとイラッとくる。


「何すんの!」
「そこでそれ洗っとけ」


偉そうにあごで指された先は洗面所。相変わらず大きい態度にもう腹が煮えくり返りそうになったけど、 私が悪いんだと何度も言い聞かせる。でも、態度に出てしまっていたのか、ジャージに着替えた榛名 くんが「お前それ引き裂く気かよ」って醜悪をついたのが聞こえた。水を止めて後ろを振り向く。


「(!!)ちょっとぉ!?何で上きてないの!?」
「今探してんだよ」
「馬鹿!変態!何でもいいからさっさと着てよ!」
「おま、変態ってなんだ!」
「うううるさい!おね、お願いだから!」
「お前さっきから何でそんなあわててんの?」
「こっちくんなー!!」


それを言って自分でも「あ、」って思った。榛名くんもさっきと顔つきが変わった。 舌打ちを1つしてこっちに早足で近づいてくる。驚いて私は下がろうとするけど、すぐ後ろには洗面所が あってこれ以上下がることはできない。距離がゼロになったとき手首をつかまれた。


「なんでそんな拒否すんの?」


榛名くんの顔がすぐそばにある。息がかかりそう。何で私こんな心臓ばくばくして「お前、顔赤くね?」 その質問で頬がぼっと熱をもったのが分かった。 「・・・・・顔、近い」しばらくして蚊の鳴くような声が出た。榛名くんは今、気付いたみたいにハッとして、 手首を離して後ずさる。「わり、」その声も聞き取れるかどうか分からないほど小さかった。 重い沈黙が訪れる。それを破ったのは先に耐え切れなくなった私だった。


「・・・・・こ!ここれ洗っといたから!」
「お・・・おおおう!!」
「午後の授業始まるし!もももういいいい行きますし!」
「おう!は、ははは早く行け!お前どーせ馬鹿だろ!」
「やーもー失礼ねぇははは榛名くんたら!あはははじゃね!」


正直2人とも馬鹿みたいだと思った。会話とテンションがおかしいと榛名くんも感じていたに違いない。 とにかくここから逃げたくて急いで「じゃあね」と言ったのに、その後、榛名くんは何かを思い出した ように「あ、」と言って「お前!」と叫んだ。お前ってなにお前って。



「あ?」
「名前!お前お前言わないで」



確かに、今「お前って言うな」って言ったのは私だけど。そんな急に、あー!もう自分が 分かんない!


「悪かったな」
「え、」
「アイス、無駄にして」
「何いきなり気持ち悪いなー」
「今度奢る。じゃあな」
「あ、ちょっと!」




(今日、革命がおこりました)









[素敵小説提出ありがとうございました!! *Dolce/雛形]