「なぁこれちょーウマいんだけど!」
昼休み、水谷文貴はいつものように私のもとへやってきて、見せ付けるようにみるからに甘そうな生クリームたっぷりのエクレアを食べていた。カスタードクリームではなく、生クリームの入ったたしかに美味しそうなエクレア。しかもひとつではない、みっつも!こんなものいったいどこで手に入れてきたの。ひとくち食べては幸せそうに顔をふにゃふにゃとだらしなく緩めて「あーうまい」だとか「さいこー」だとか言っている。私は水谷からサッと目を離して自分のお弁当に夢中になっているふりをした。だけどもう、私のお弁当箱にはあとお弁当ミニハンバーグ(最近のお気に入りのおかず)がひとつ残っているだけだ。
「そー良かったね」
「なんだよ興味なさそーな返事してさ。食ってみればわかるって」
「いいよ、ダイエット中だし」
「ダイエット?!絶対いらないっしょ細ぇじゃん」
水谷はさらりと嬉しいことを言ってくれた。私、細くなんかないとおもうけど、やっぱり男の子と女の子じゃ観点が違うんだろうか。だけどわたしは嬉しいそぶりはしないで、変わりにべぇと舌を突き出した。
「いるのー見えないところがすごいんだから」
「見えないならいーじゃん、…え、もしかして誰かに見せんの?!」
「そんなわけないでしょ!ばかクソレ」
「ひっでぇ!」
水谷は大袈裟にショックを受けて「いーよもうどーせオレはクソレフトですよー」とぶつぶつ呟いた。私は食べ終わったお弁当を片付けながらちらりと水谷を盗み見た。彼はまたエクレアにかぶりつくとさっきと同じようにとけそうなくらい幸せそうなかおになる。単純というか、素直というか。私は思わず笑いそうになって、咳払いをしてごまかした。水谷はその声に反応したのか視線を私に向けて、思いがけなく目があってしまうと彼は何を思ったのか「やっぱり食いたいんだろー」といってにやにや笑った。「いらないよ」とそっぽをむくとさらに笑みを深めて私の前に回りこむ。「まーまーいーからほら!」「むぐっ…」いきなり口にエクレアを突っ込まれて、危うくのどに詰まりそうになったそれはとても甘ったるい生クリームとほんのちょっとだけハンバーグの味がする。口に入ったものを吐き出すわけにもいかずのどの奥でむせながらちょっとだけ水谷を睨んでやった。ちょっと、何するの、急に。口いっぱいのエクレアをもごもごのみくだして水谷にそう文句のひとつでも言ってやろうと思ったのに、
「ウマいっしょ?」
水谷はふにゃりと笑ったものだから、私は戦意をそがれてしまって結局くちもとが緩んでしまうのだ。うん、でもまぁ、悪くない。
(そうして私は、もっとすきになってしまうのだ、)
オレがエクレアをやるとはさっきまでの怒ったような顔をゆるゆると綻ばせていった。満面の笑みとまではいかないけれど、オレはのこのちょっと嬉しかったり楽しかったりするのを隠すみたいな笑い方がすき、だ。だってなんかいつも強気ながスゲーかわいくなるんだもん。オレはそれが見たくていつも生クリームのたっぷり入ったデザートを買うのだ。まぁほとんどは自分で食べてしまうのだけどそこはご愛嬌。
「悪くないね」
はコホンと咳払いをして言った。これは彼女が笑をこらえるときによくする癖だ。「だろー?」オレはつい嬉しくなってわらった。はいつもはじめは渋るくせにオレがあげたデザートをマズいと言ったことがない。悪くない、というのは今回も結構気に入ってくれたということだ。素直じゃないところがたまらなくかわいい、!
「水谷ってほんと生クリームすきだよね」
「そりゃぁ、そうだけど」
「…けど?」
首を傾げる彼女に、オレは喉元まででかかった言葉を丸ごと飲み込んだ。のくちびるの上についた生クリームが、今まで見た中で一番に魅力的だとおもった。
(だいすきな生クリームよりも君がすきだから、毎日なけなしのおこづかいをはたいて購買へ走るんだ)
+++水谷文貴はがんばりやさん。
「*Dolce」さまに提出させていただきました。
ありがとうございました。
[素敵小説提出ありがとうございました!! *Dolce/雛形]