部活を終えて、ちょっと本屋に寄り道してから帰ってみると、家には誰もいなくて(どうやらお母さんもお父さんも仕事で遅くなるらしい)リビングのテーブルには赤々として甘そうなイチゴが入ったお皿が置いてあった。一枚のメモと一緒に。今日は仕事で遅くなります、ご飯も用意できなかったので何か買って食べてね。と、メモには書いてあって、お金が置いてあった(別に珍しくもないことだけど)とりあえずはイチゴをひとつだけ手にとって食べてみる。甘くて酸っぱくて、おいしい。これを一人で食べるのはもったいない、って思って、あたしは携帯電話を開いた。



「あ、返事きた。」



幼馴染にメールを送ると、一分もしないうちに返ってきた。家にいるみたいなので、イチゴを持ってお邪魔することにしよう。とりあえずは適当にカップラーメンを食べて(夕食)あたしはイチゴを持って、家の戸締りをしっかりとすると、歩いて一分もしない真向かいの家へと移動する。チャイムを鳴らすと顔馴染みのおばさんが出てきて、快く迎え入れてくれた。階段をのぼってすぐのドアをトントンと二回ノックしてから入った。どうやら雑誌を読んでいたらしい幼馴染は、ベッドに寝転がったまま、顔だけこっちに向けた(やらしい雑誌じゃないでしょーねー)



「よぉ、お疲れ。」

「そっちこそ、野球部の方が練習長かったでしょ。」

「まぁな。」



準太は雑誌を閉じるとようやっと起き上がった。あたしが手に何かを持っているのに気がつくと、菓子?と聞いてきた。時間からして高瀬家では夕食はすんでるくらいなんだけど、まだお菓子とか食べれるんだ(まぁ、そうか、準太ってば見た目細いけど、よく食べるんだった)チラリとベッドに置かれた雑誌を見てみる、やらしい雑誌じゃないことに思わずホッとする。別に年頃だしおかしくはないけど、幼馴染としてはちょっと嫌というか何というか…。そんなあたしの考えてることを分かったのか、準太は、バカ、と一言の後に痛くないけど頭をたたいた。



「そうそう、食後のデザートにイチゴはどうですか?」

「イチゴ?くれるんなら食う。」

「おいしーよー、はい、どーぞ。」



机にお皿を置かせてもらう。準太はイチゴをひとつ摘まむと口に入れた。何回か噛んで飲み込むと、うまい、と笑顔を浮かべる(この顔、写真に撮ったら友達に売れるかなぁ)あたしもイチゴに手を伸ばして、口に入れた。やっぱりおいしい。果物の中では、あたしは一番イチゴが好きだ。甘くて酸っぱくて、飽きない味。あたしたちはくだらない話をしながら、イチゴを摘まんでいく。そんなとき、つい最近友達と話した内容を思い出した。いきなり黙ったあたしを準太は変に思ったのか、とつぜんデコピンを受けてしまった(ちょっと痛かった)



「なに一人でトリップしてんだよ。」

「いやぁ、この間友達としてた話を思い出してね。」



どんな?って聞かれたから、更に記憶を遡らせる。確か、三日四日前だったと思う。友達が持ってきてた雑誌を一緒に見ていたら、恋人特集っていうのがあって(そんなのがあっても、今、あたし彼氏いないんだけどね)その中にはデートの話とか初キスの話とか、そういうのがあったりする。



「キスはレモン味かって話になってさ。」

「…何の話してんだか。」

「あのグループで唯一彼氏がいたのがあたしだけでね。」

「…今、いないじゃん。」

「うるさいなぁ。」



鼻で笑われたし!そういう準太だって今いないくせに(付き合った子がいたけど、あたしよりもっともっと早い三週間で別れたくせに、可愛い子だったのに)ちょっと腹立たしかったのでこの話言ってやらまぁかと思ったけど、続きは?って聞かれたので、仕方ない、話してやるかぁ。



は何味だったかって聞かれて。」

「…へー、ふーん。」

「ちょっと、真面目に聞く気あるの?」

「あるあるあるある。」

「ある多すぎだってば。」

「あるよ。」



ふざけてるのかと思えば真面目な顔もするし(ちょっとドッキリしたじゃんか)なんだかむしょーに恥ずかしくなってきたので(そりゃ恋話だし一応)誤魔化すためにもイチゴをもうひとつ口にいれた。甘い。おいしい。



「あたし実はキスしたことないんだよって言ったら。」

「えっ!」

「…なんで準太も驚いてんの?」



そりゃあ、あたし三ヶ月くらい付き合ってたけどさ。もしかしたら一年付き合ってもキスしない人だっていたかもしれないでしょ。そんなにホイホイしてられませんよ。友達にキスしてないんだよって言ったら、今の準太のような反応をされた。



「え、キスくらい、してるかと…。」

「してないよ。だって、初キスは特別でしょ。」

「特別?」

「そうだよ、だって、キスはとびきり甘くなくちゃ!」

「…意外に乙女だな、お前。」



意外ってなんですか、意外って。衝動に身を任せて準太の雑誌で頭を思い切りたたいてやると、準太はすっごい痛そうな声をあげた。そりゃあ、あたしはちょーっとガサツなところあるけど、そういうのはけっこう純粋だったりするわけですよ。キスとか、それ以上とか、そういうのはぜったいに特別。ドラマとかで見るキスは、なんだか甘くなさそうで、簡単にはキスしちゃいけないなぁって思ってたんだもん(それに、相手のことだって本当に心から愛があるかって言われたら迷っちゃうし、告白向こうからだったし)



「乙女ですよー、次付き合う人とはキスできるかなぁ。」

「…さーな。」

「でも、このくらい甘くないと嫌だなホント!」



あたしは、丁度よい例えが目の前にあったので、イチゴを摘まんで見せてやった。キスは食べ物じゃないから、そんなおいしいとかないだろうけど(実際、まだキスしたことないわけだし)それこそ漫画とか雑誌とかでちょーっと勉強したくらい、偉そうなことは言えないのが事実ですけどね。本当、このイチゴくらい甘くて素敵な味なら、してみたいとは思うけどね。そう思ってあたしは持っているイチゴにキスをしてみた。そんなあたしの行動に、準太の体が静止してしまった(もしかして、引いた?)あたしは慌てて準太の肩を揺さぶる。



「準太ー、準太ー、おーい、準太くーん。」



その呼びかけの声あってか、準太は再び動き始めた(ロボットかっての)準太はイチゴをひとつ摘まむと、やけに真面目な表情でイチゴを口にいれた。そんなに引いちゃったんですか準太。今頃恥ずかしくなってきて、あたしもイチゴを食べて誤魔化そうと思ってたとき、いきなり、腕を引っ張られた。何するの!って言おうとしてたけど、そんな暇もなく、思わず目を見開いた。



「…。」



え、え、え、え、え。
ちょっと待って、ちょっと待って。どうしてこんなことになってるの。顔が近くて、恥ずかしくて、じゃなくて。口、口、口!わ、わ、わ、わ、わ(どうにかして逃げなきゃ)とりあえず押す。でも、お、押し切れないー!って…。

ん、ん、ん、ん、ん!



「…んん。」

「…っは…わりっ。」



やっとのことで解放されて、思わず準太を凝視する。とつぜんのできごとに思考回路がついていかない。1,2,3でやっとのことで状況が理解できてきて、思わず口元を両手で押さえた。ほのかに口の中が甘い、気がする。思い出してクラクラ眩暈がする。準太は頬を二回ほどかいて、両手を合わせて苦い顔をした。そこでやっとあたしは準太にキスをされたんだと、ハッキリと分かった(しかも、しかも、舌が入ってきたよー!)初キスが準太!しかも、初でディープ!で、でも、あたし…。え、うそ、あ、あ、ありえないー!



「順序狂ったけど、俺、が、好き、だから…。」

「え、え。」



準太の顔がいっきに赤く染まった。そして、あたしの顔も同じくらい赤く染まってるんだと思う。握られた手は、熱いくらいで(でも、どっちが熱いのかなんてぜんぜん分かんない!)なんでだか知らないけど、あたしはその手をギュウと握り返していた。




「俺と、付き合って。」











((この甘い味が忘れられそうにないあたしは、コクリと頷いてしまった))



[Dolce様に恐れ多くも捧げます、ちょっと走りすぎた準太夢]


[素敵小説提出ありがとうございました!! *Dolce/雛形]