2月、14日。2月14日!!!!そう、今日は2月14日。俺には恋人というか、めちゃくちゃ好きな人がいる。その人は毎年毎年マネージャーだからってみんなにチョコあげちゃってるし、友達にもはたまた近所の子供にも、くれと言われればどんなに材料費がかかろうと寝る時間を削ろうとうきうき笑顔であげてしまう人だ。俺にくれればあとの人たちなんて別にどうだっていいのに!俺がそういうとその人、先輩は決まって笑顔でこういう。「だって、みんなにいつもお世話になってるし・・・・」いやいやいやいやいや!だからってさ!なんだかとてもめちゃくちゃ腑に落ちないけども、そう笑顔で言われてしまえば何にも言い返せず(俺はあの人に困ったように笑われるとどうしていいかわからなくなるのだ)今日のこの日を迎えたわけだ。
だけど
「なんであの人今ここにいねえんだよ!!!!!!!!」木曜日、バレンタインデイ当日。二時間目の現代文の後の10分休みの俺の叫びは悲しいことに今海外へと旅立ってしまっている先輩の耳には届かなかった。
「しょうがないだろ!先輩の親戚の結婚式、海外でやることに決まったんだから。」
うっせーわかってんだよ黙れ愛を知らない地味メガネめと俺がいうと秋丸は無言で俺の頭を殴った。いてぇな!おまそれさっきの時間で使った資料集だろうが!わかってるんだよしょうがないことぐらい!本当は無茶苦茶嫌だったけどあんなにすまなそうに「ごめんね」と言われてしまえば俺なんか「いいですよ」としか言えないし。
あぁ、けど、今日欲しかったな。チョコ。や、チョコならなんでもいいわけじゃ、絶対にない。あの人が少し照れたような笑顔で渡してくれるモノが欲しかったんだ。メールだけでも着てないかと鞄のなかを漁る・・・・・けど。
「いってぇ!!榛名!椅子けんな!」
ああああああああああもう携帯も家に忘れた!!ありえねー!最悪、マジ最悪。つか秋丸うっせーぎゃーぎゃー騒ぐな!今ぜってー俺のほうが危機だから!ストレス溜まるー
「てゆうかさ、榛名そんなこと言ってていいの?」
「何が」
「テスト近いじゃん」
「あぁ、俺大学野球推薦で行くから。」
「(・・・・)うん、けどさ。メジャーとか狙ってるんなら英語とかさ、真剣にやったら?ちょっとは。」
「大丈夫。先輩英語得意だし。」
「(えええー)あぁ・・・先輩も一緒に外国行くんだね。」
何今更なこと聞いてんだコイツ?疲れた顔しやがって。そんなに疲れてるんだったらさっさと帰れ!俺だって疲れてるってのに。英語とかいうから先輩が外国行ってること思い出したじゃねーか!
・・・・少し離れただけで、同じ陸の上にいないというだけで、部活に行って、あの人に絡んで、あの人の少し困った笑顔を見ることがしばらくできなくなってしまっただけで、こんなにも寂しくなるものなのか。
立春も過ぎたというのに、まだまだ寒くて。流れる風は、今日の朝方降っていた寂しいうっすら雨を含んでいて。空には、真っ白な雲が、空の青くて綺麗な顔を見せたくないのか、隙間も見せず覆いかぶさっていた。
というかさ、俺実はあんまり愛されてないんじゃねーの?今日一日中、それこそあの人のいない部活の間もずっと考えに考えて考えすぎてこんな結論に至ってしまった。(これを言うと、秋丸はものすごく疲れたような顔をした。)だって、あの人そんなに寂しくなさそうだったし。フランスだかイギリスだかが楽しみだってそんなことばっかり言ってて。そんなとこ、俺がもう少ししたら飽きるぐらい連れてってやるって言ったら、何言ってるのと笑うだけで。あの人は、俺に一線引いてんだ、いつも。本気にならないように、本気になって、傷ついた時壊れてしまわないように。愛されてない、愛されてない?
こんな、何日か会わないだけで、世界一近いと思ってた人間のことが世界一遠くなるのか。
早く、早く会いたい。早く。
家に帰ってご飯を食べようとすると、机の上に可愛いラッピングの箱が置いてあった。
「母さん、これ何」
「あぁ、アンタ宛」
「は?誰から」
「アンタが帰ってくるずっと前に、可愛い女の子が届けに来たのよ」
隅に置けないんだから、とにやにや笑う母さんの言葉を聴きながら、俺の頭には一瞬で誰だかが分かった。
あの人だ。
ご飯はいいのかと聞いてくる声に適当に返して、二階に駆け上がって置き去りにしていた携帯をみると留守電が申し訳なさそうに一件入っていた。
『榛名くんですか?えぇっと、そのー・・・・・・』
夏のあの頃なら、まだうっすらと明るい時間。この時期はもう真っ暗で、冷たい風が吹いていた。そんな真っ暗な中で、少しの電灯と通る電車の明かりに少し照らされた公園に、俺が今日一日会いたくて仕方なかった人がブランコに乗っていた。
「・・・・っ、先輩!!!」
「うぇああああ?!榛名くん?!!」
そんなびっくりすんなよ、俺が来るの、少しも期待しなかったのか、この人は。それなのにこんな真っ暗な公園で、一人で、真っ暗な、まっくらな。
「真っ暗なぁあああ!!!」
「はいいいいい?!何?!!」
「そうだよアンタこんな真っ暗な中一人でいたのか?!襲われたらどうしてたんだよ?!アホだろあんたアホだ」
「えええそんな久しぶりにあったのになんでこんな私アホ言われてるの」
「アホ」
「えええ」
というより、なんで自分が日本にいるのか分かったかなんてアホな質問してきやがった。やっぱアホだ。だって、テスト期間の真っ最中に律儀に手作りのチョコを持って、俺の部活の時間が終わった頃に渡しに来て、名前も書くのを忘れてチョコを渡すようなのアンタしかいないじゃないか。それにわざわざ「チョコ渡せなくてごめんね」とか、帰ってきたらしっかり違うの作るからなんて、そんな。アホだなぁ、この人。
「アンタの留守電に、電車のアナウンスがばっちり日本語で入ってたんですよ」
「ええええそうなの?!!」
嘘だけど。これくらいの意地悪は、俺のチャームポイントかなんかだと思って可愛く思ってくださいね!
走ってきて暖かい俺の体とは対照に、まったく冷えてしまっている体を痛いぐらいに抱きしめる。この人だ、俺がずっとずっと会いたかったのは、この人なんだ。俺はもうこの人がいないと駄目だ。
幸せそうに、暖かそうに、先輩は言った。「私、榛名くんと少ししか離れてないのに、寂しかった。もう、そうだな、榛名くんいなきゃ、駄目かもしれない。」
しれないってなんだ、しれないって。俺はもう全然駄目なのに。「俺、もう駄目です。」と言うと、先輩はあははと笑うだけだった。くそ、この人本気にしてないな。いつか絶対分からせてやろう。抱きしめてる力を、もう少し強めた。「痛いよ」と小鳥のように笑う愛しい人の言葉には、肩に頬を摺り寄せて返した。
今何時?と聞かれて、自分でも気づくともう時計は7時を回っていた。しっかり送りますから、と言うと先輩はありがとうと嬉しそうに笑った。もらったチョコの箱は、夢中で走ったせいで少しへこんでしまっていた。冷たい石のようなベンチに腰を下ろして、その箱を開けた。
先輩は、「今年は向こうで作ったから、あんまり凝ったの作れなくて。生チョコなんだよ!」と俺の大好きな少し照れたような笑顔をしてみせた。十分こんだけでもすごいと思うんだけどな。けどそれを言うと決まって「誰でもできるよ、これぐらい」と返されてしまう。アンタがすごいって言ってるのに、なんで他の人を出すんだ。
「明日みんなに渡すんスか?」
「ううん、今年は、榛名くんだけだよ」
「・・・・え?!なんで!」
「や、えと、あの、変な理由だから!」
そんな真っ赤な顔して変とか言われても全然説得力ねーよ!って黙って見つめていると、観念したように続きを話し出した。
「・・・ほら、離れてたでしょ?えと、私と、榛名くん。だから、そのチョコも、榛名くんのことばっかり考えながら作ってたの、そしたら、なんだか榛名くんにしかあげたくなくなったというか、このチョコは榛名くんのためだけに作った、もんだな、と思ったというか。・・・・ほら!変な理由でしょ?!だから言うの嫌だったのにってうわぁ!!!」
最後までその嬉しすぎる言葉を聴けずに中断するようにしたキスは、さっきまで食べてた、が俺のためだけに作ってくれたチョコの味がした。
(ああ、もう俺この人大好きだ!) |
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